金出武雄. 独創はひらめかない―「素人発想、玄人実行」の法則 (日本経済新聞出版)
ある理由から、金出先生の著書を教えて頂き、勉強のために読んでおります。皆さんように分かりやすくはないですが、数字の各章で気になった内容を、各章のタイトルの下に感想としてまとめておこうと思います。
>3.成功を疑う
個人レベルでは自分の成功、会社でも成功体験がむしろ(本来すべき素人的な)発想を邪魔するという話は、クレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」も連想させ、その回避策こそ「素人発想、玄人実行」かもと思います。なお、「素人発想、玄人実行」は役割を分けて複数人で実施するのではなく、1人の人間がこの相反する両面の能力や役割を兼ね備えるべきという内容です。
>7.構想力とは、問題を限定する能力である
問題設定の大事さという意味では、「イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」」を思い出しました。この本では「本当にそれが解くべき問題であるか、イシューであるかを見極める必要がある」ことが書かれていますが、金出先生は、「研究開発は構想力が決め手になる。砂を多すぎず、少なすぎず、どういう形にすくうかは、まさに芸術であり、科学者の審美眼である。」と説明されています。課題設定や対象とする問題の範囲や規模の設定は、どの会社、どの組織、家庭内でも生じる問題であり、小説の例もされていますが、とても分かりやすいです。
>8.キス・アプローチ──単純に、簡単に
キスとは、「Keep it simple, stupid」の頭文字をとったもので、考えるときの方法。この章では、私の大学時代に勉強した、FEMとDEMを思い出しました。FEM(有限要素法)とは、”地盤やコンクリート構造物などの固体から,地下水などの流体に至る,自然界の物体を有限個の要素に分割し,要素ごとの力や運動量,圧力などの釣り合いを考えて連立方程式を立て,電算機で数値的に解を求める方法”です。一方で、DEM(個別要素法)とは、”物体を個々の粒子や多角形の要素でモデル化し、そのそれぞれの運動を追跡する数値解析手法”です。FEMは、計算処理の問題で、物体をある程度の大きさの有限要素に分割するのに対して、計算処理は多大になる代わりに、砂などを実粒子単位に近いサイズで解いていく方法で、仮定や前提をよりシンプルな式で定式化できる特徴があります。私が大学院時代に勉強していたDEMでした。
>12.アイデアは「人に話して」発展する
この章での心に残ったのは、「アイデアは人に伝え、わかってもらえなければアイデアでない。」「アイデアを昇華させるキーは「人に話すこと」であり、「英語では『サウンディング・ボード(音の反射板)になってくれるかい?』」というらしいです。スタートアップのアイデアを議論する際に使われる「壁打ち」や「メンタリング」などにも相当する内容かなと思います。
>23.創造力、企画力の土台となる記憶力
記憶力の話となれば、池上裕次さんの「記憶力を強くする」などの本が思い出されます。その本では、確か「記憶とは、神経ネットワークのつながり方が変わること」だったはず。そして金出先生は、繰り返し学習は今でも大事だし、それがアイデアの基本であること、記憶力には「覚える力」と「引き出す力」の二つがあることが説明されています。記憶は、神経ネットワークを作ることで、その分思考を省略できる代わりに、固定化されることの弊害をもあります。それを回避する方法が事項(25)につながる内容かなと思います。
>25.異なるジャンルの人と知的に対決
「身についた思考の枠組みが、自分のアプローチと異なる新しい考え方や知識を吸収する邪魔をしてしまうのだ。これを防ぐには日ごろから未知のものに触れておくことだ。未知のものに触れる最もよい方法は、自分の専門外の人の話を聞き、彼らと話をすることである。」本書のテーマでもある「素人発想、玄人実行」(素人のように考えて、玄人として実行する)ことの1つの方法論と思います。私も、ある時から会社外の人とできるだけ触れる時間を作ることを大事だと意識し実施しているつもりですが、専門外の人との触れ合いが大事さの理由が改めて認識できた気がします。
もう一つ。「どんな分野の人であれ活躍している人は、その分野についての問題をアブストラクト(抽象化)して考えられる人である。分野が違っても抽象化された思考法は共通している。お互いに了解できるものが多い。」 私も特に現代アートなど抽象化?されたものをみるとき時に意識するのが、誰かの受け売りですが、”コンテキスト”を捉えること。違う分野や出来事でも、コンテクストを自分のより近いものに当てはめて考えることで、分野間でも共通点や相違点を議論できるように思います。先生の言葉では「ツボを押さえること」。確かにその通りな気がします。
>28.前置きなしに話す──こう言えば、ああ思う
「スライドを一枚だけしか使ってはいけないと言われたら、どれを使うか、二枚だけなら、三枚だけなら……と考えて、いわば手もちの、よいカード順にベストファーストの方針で使うわけである。」
最近、四六時中、パワポで発表スライドを作っているので、とても参考になった章です。日本では「研究の背景、現状、必要性を順を追ってプレゼンテーションするのがよい」その通り。ベストファーストのスライドで作ってみます。。。続けて36章には、「起承転結」が大事である説明されています。
>36.論文や人を説得する書き物は推理小説と同じである
「私は、 「論文と推理小説は同じである」 と学生に言いきかせている。」
『「起」──読者の好奇心を引き出せ!「承」──仮定をうまく設定しろ!「転」──解を導いたキーアイデアを少しずつ出せ!「転」──解を導いたキーアイデアを少しずつ出せ!』
>45.人を引っ張るリーダーシップ
日本の会社では、偉くなる=実務が分からない(マネージャーであるが、プレイヤーではない)ことが多い(そうなるべきと思っている節もある)と思いますが、このNASA長官の話の中で、現役であるかどうか(マネージャーでもあるが、プレイヤーでもある)の例が示されている。私自身完全にプレイヤーのつもりでいるが、いつも忘れないようにしたい。
自分への備忘録ですが、皆さんにも少しでも参考になれば嬉しいです。